アート作品を「所有したい」と最初に思ったのは、いつ頃ですか?
高校のデザイン学科を卒業後アパレル系専門学校へ。デザイン会社でのアルバイトを経て、大阪のファッションを中心に扱う出版社に就職しました。
基本的なデッサンからグラフィックデザインまでを学び、作品と出会う機会も多かったですが、アートを意識したのはアパレルからだったと思います。絵画やオブジェとは違って大量生産され、生活に関連するジャンルをアート作品と区別していいかはわかりませんが、ステッチ一本にまで魂を込める洋服は当時の僕にとって作品として映っていました。着ない(着れない)服に何万円も出して部屋に飾っていたぐらいです。今考えればアホですが、所有しているだけで満足していたことを思うと、自分にとってアートだったなと。
では、初めてアート作品として意識したブランドは?
イギリスの『maharishi』は刺繍が素晴らしいブランド。写真を見てもらえれば分かりますが、図柄が彫り物っぽいんですよ。ヤンキーっぽいダボっとしたシルエットのパンツにやってしまうところも好きで、デザイナーはイギリス人ですが逆輸入ブランドのようでかなり新鮮でした。
グラフィティにやられたのが19歳の時に出会った『SAMPLESS』。ウェアが多いですが、シルクスクリーンの一点物(だったと思う)だからカテゴリはアートです。コラージュのような作風と奇妙でまったく理解できないテーマ。大阪にも取り扱っているセレクトショップが存在していたのですが、閉店して以降は東京のレコードショップからわざわざ通販していました。すぐ売り切れるのでほとんど買えなかったんですけどね…今でも欲しい作品が多くあります。というか全部欲しいです(笑)。
所有しているアート作品はどのように楽しんでいますか?
所有しているけれど「楽しんでる?」と問われれば、楽しんでいないと思います。僕がアート作品に楽しさを感じるのは所有物になった以後よりも、出会う瞬間までです。出会えた瞬間が最高潮に楽しんでる。
『SAMPLESS』と出会った19歳の頃。専門学校の友人たちとクラブで遊ぶようになってからはアンダーグラウンドシーンに存在する作品やアーティストに夢中になっていきました。特に『POWWOW』というパーティーは常にフライヤーが衝撃で、友人と「今月もヤバイ、ヤバイ」と見つけるたびに大騒ぎ。今思えば『SAMPLESS』が持つ世界観と近しい空気があったから出会えたんじゃないかなと。蓄積された感覚が新たな作家や作品に出会わせてくれる。僕はその積み重ねが楽しいです。
とは言いながらも、いくつかのお気に入りは飾ってます! 最近だと、南田真吾さん。自然から都会まで様々な風景を描かれる方ですが、どれもがヴェイパーウェイブっぽいノスタルジックさがあります。雪山を描いた一枚を店に飾らせてもらっていますが、いい意味で飲食店っぽくないというか。馴染まない、孤立した空気感が気に入っています。後は、スリランカで買ってきたヘタクソ(書きかけ?)な古い絵も同じ理由で飾っています。
オンライン上で展示や作品を見ることと、実際に生で見ることの違いはありますか?
もちろんあると思います。まず画面上ではテクスチャーが伝わってこないです。絵画はもちろんですし、写真作品でも現物のサイズ感で見てこそ表れる粗さや繊細さによって印象は変わる。造形物であれば尚更です。
どんなアート作品をこれから所有したいと思っていますか?
気になっているのは徳島の藍染集団『BUAISOU』がコラボしていた『LAND』と言うブランド(アーティスト?)。ファブリックのアートワークがアイヌ民族を思わせるような紋様で、めちゃくちゃカッコイイんです。ジャケットも最高だったし、Spotifyで作成しているプレイリストも好みだったのでドンピシャかなと。引き続き追いかけたいと思っています。
あなたにとって「Owned Art(所有しているアート作品)」は、どんな存在ですか?
ただの欲の記録です! 何万円も払うこともあれば木や石も拾います。その時欲しかっただけ。少なからず“暮らしを豊かにする”や“心が落ち着つく”とかではないです。そんなこと言うてる人とは友達になれないですね(笑)。
アート作品をこれから購入する方に向けてアドバイスなどありますか?
買い逃すと、一生買えないことがほとんどです。
乾 亮太(フリーライターとカレー屋)
大阪府大阪市生まれ。ファッション&カルチャー誌での編集を経て、現在はフリーライター兼カレー屋。
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