アート作品を「所有したい」と最初に思ったのは、いつ頃ですか?
「いとへん」という場所を構えるまで、私自身が作家活動に重きを置いていました。作品を創り続けると、必然的に『観てもらいたい!』と言う衝動に駆られると思います。私もそうでした。今思えば、承認欲求が根源的にあるんでしょうね。自分の歩んでいる道は果たして正しいのだろうか?そんな不安を解消する一つの手段として展覧会を開くと言う事が考えられました。創り、悩み、苦悶し、喜びを繰り返す中に、第三者に披露する機会を持つことは、言わば『ガス抜き』に近いものだと、当時の私は考えていたものです。そうして会場を吟味し、会場の利用費を工面します。差し出すものが多い分、金銭では代替不可能なものを多く得ることが出来ました。具体的に言えば主に有効な人間関係ですが、自分の思い込みを柔らかく握りつぶし、あらたに再生することのできる、実に意味のある思考の再構築が叶うと言えます。これは参考書にも載っていない。
そういった一連の作業を通じて、やがて他人の仕事=創作物にも興味を持てるようになりました。言わば、本当の意味での「寛容性」を自分なりに獲得したんだと思います。それが作品を買い、飾るような習慣を持った理由です。20代の後半からデザイン系の専門学校で商業美術を学ぶ人達を相手に、版画を主に教えるようになりました。生徒さんの中にも血気盛んな人たちがいて、これも必然的に展示に至ります。先生として生徒の展示を観に行き、「手ぶら」で帰るワケにもいかず(笑)
なんだか小難しいことを並び立てましたが何てことはない。恥をかきたくない、かかせたくない・・・というのが、私が作品を所有することになった始まりでした。
アート作品を購入することに至った決め手はありますか?
う〜ん、、直感?(笑)でも、本当のことを言えば、そうだと思います。創作の背景を想像し、創り手と対話をし、作品に惚れ、その人自身の創作する時間を支えたいと思った時に買うようにしています。
なので所有している作品には収集するテーマもコンセプトも持ち合わせていません。飾っている絵もてんでバラバラで統一感など微塵もありません。逆にその私個人の室内(家と言う空間)の多様性を、私自身が愉しんでいるように思います。
所有しているアート作品はどのように楽しんでいますか?
季節に合わせて、、と格好良く言いたいところですが、時間に余裕のある時ですね。逆に飾り付けを変えたりする時は、心にゆとりがあることを意識できた時だと思います。自身の心理を知る上でも、大切な作業だと思えます。
オンライン上で展示や作品を見ることと、実際に生で見ることの違いはありますか?
もちろんです。オンラインは、限りなく原画に近づけて掲載できるように、みなさんが苦労を重ねていると思いますが、いかんせん画面越し。実は作品を観る前に「画面を見ている」ことに気付きます。我々の目は、想像以上の「解像度」を有しています。その肉体の持つ解像度と、画面の解像度では雲泥の差があります。その差は、いくら技術が進んだところで変わることはないのではないか?というのが私の考えです。
あ、でもオンラインで作品を拝見することも私は好きですよ。これはこれでテクノロジーの恩恵を受けていると思います。
どんなアート作品をこれから所有したいと思っていますか?
基本的には、私自身が運営している「いとへん」で展示をして下さる方の作品を、これからも買い続けたいと思います。その理由は、前述のように「支えたい」と言う気持ちが、購買に至る優先順位の先頭に立っているからです。そして、各地で発表を重ね、できればそれを観に行き、その地で買う。そうすることで、作家と、その展示を企画したギャラリーないし、オルタナティブなスペースを維持する人を支える事ができるので、そのようなお金の使い方には積極的になりたいと常々、考えております。
あなたにとって「Owned Art(所有しているアート作品)」は、どんな存在ですか?
なんだかんだ言って買い集めて、飾って愉しんでいるアートは、私自身に「見に覚えのあるもの」だと思っています。言うなれば他人が創った「わたしごと」と言いますか・・・。総体的に言えば、私なりの「鏡」を集めていると言っても過言ではないなと感じています。その例えが分かりにくければ「窓」と言い換えても良いかも知れません。日常生活の中に、何か悩みや不安、心配事に苛まれたとき、自分の住空間に新しい「窓」を取り付けると考えても良いと思います。非日常的な考え方かも知れませんが、それこそ我々の脳内に元々備わっている想像力は、どのように使おうが自由だと思います。その想像に「翼」を付け、どこにでも、どこへでも旅が出来るのではないでしょうか。
アート作品をこれから購入する方に向けてアドバイスなどありますか?
「画廊」や「ギャラリー」と聞くと、なんだか敷居の高さを感じて、「ちょっと、なぁ、、、」と思われる方も少なくないと思います。当たり前の話だと思います。なぜなら我々は、そのように美術を鑑賞する授業も、意見を交わす場も設けてきませんでした。美術専門の教育機関に行けば、それはまた別の話。しかし、この日本でも、カフェや美容室、雑貨店や本屋さんでも絵や彫刻などの芸術に触れる機会が随分と増えたと思います。この傾向は、コロナ渦を経た後、より強まる傾向になると思います。そう言ったところで観る作品をまずは、眺めてみてください。そして気になる作品を見つけてみてください。ここでは予備知識など不要でしょう。ぜひ頭ではなく「胃の腑」で判断していただきたい。じんわり、胃の辺りが温かくなってきて心地良さを感じたら、それが正解でしょう。そして、その気になる作品の値段を見てみてください。崖から飛び降りる程の勇気は要らない価格帯だと思います。高い、安いに限らず思い切って、その気になった絵を買い、部屋に飾ってみてください。生活を続けていると、時に「引っ越し」も余儀なくされるかと思います。そんな時に突如、「断捨離」のキーワードが頭を占領するはず。
多分、その思い切って買ってみたアートは、「断捨離」のリストから外れると思います。それほど、「費用対効果」の高いものだと、体感されることだと確信を持っています。
鯵坂兼充(グラフィックデザイナー / iTohen主宰)
1971年鹿児島県川内市生 (現:薩摩川内市)。グラフィックデザインを学ぶ為単身、大阪へ 。上田学園 大阪総合デザイン専門学校 グラフィックデザインコース 特待生として研究科修了。卒業後、大阪府の文化事業に参加。森喜久雄:壁画スタッフとしてインドネシアへ。修了後、銅版画による作品制作を開始。株式会社クル:インテリアデザイン事務所へ勤務。家具、照明などオリジナル造作物制作担当として勤務。大阪総合デザイン専門学校:商業美術コースへ専任講師として勤務。銅版画、シルクスクリーン(プリントメイキング)を中心に担当。 2001年に独立。グラフィックデザインを中心としたSKY GRAPHICS設立。 2003年に大阪市北区本庄西にギャラリー業務を主体とした複合施設<iTohen>開店。 有限化にともない商号を<(有)SKKY(スカイ)>へ 変更。現在、グラフィックデザインを中心に活動。また各作家のサポート及びプロデュースを行う。2004年~2011年の間には、美術作家:森口宏一氏の制作アシスタント兼任。
2001年から2020年3月まで大阪総合デザイン専門学校ヴィジュアルコミュニケーションデザイン学科 非常勤講師を兼務。NPO法人アーツプロジェクト 外部受託デザイナー。大分県日田市を舞台とした団体『ヤブクグリ』web係。
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